強化エクササイズの必要性と注意点

筋力トレーニングの神話


日本では筋力トレーニングに関して、しっかりとした科学的根拠があるにもかかわらず、不勉強(知ったかぶり)で無責任な指導者やパフォーマーたちによって、長く批判され、また敬遠されてきました。ダンサーや他のスポーツ選手たちの機能向上や損傷を予防するためには、こういった間違った考えや情報を拭い去る必要があります。

1. 筋力トレーニングは筋肉を硬くし、柔軟性をなくしてしまう?

最近までスポーツ選手たちは、筋力トレーニングによって筋肉が”硬く”なり、柔軟な動きがし辛くなることを恐れていました。しかし実際は全く逆で、例えば関節が制限されていると思っているダンサーは、多くの場合関節をコントロールする筋肉が十分強くないために、可動域すべてを使えていません。正しいエクササイズは、関節の可動域を増し、どんな人でも素早く、力強い動きを獲得できます。自分は関節が硬いと思い込んでいるダンサーは、やたらストレッチに精を出そうとしますが、本当はストレッチより強化することが重要なのです。さらに通常レベルでトレーニングしているだけで、見栄えはよくなり機能面での効果も得ることができます。

2. 女性が男性と同じように定期的に筋力トレーニングを続けていくと、女性も男性と同じように骨格筋が発達する?

未だに女性は筋力エクササイズを恐れる傾向があります。しかしその必要はありません。なぜなら女性には大きな骨格筋を形成するために必要な男性ホルモン(テストステロン)が欠乏しているからです。それどころか、女性が筋力トレーニング・プログラムを実施することで、余分な脂肪が失われ、腕や臀部、脚部の容積を減少させて、さらに骨格筋の構造が改善されます。稀に、腕が太くなったのでは、と心配される人がいますが、これは今まで使われずに眠っていた筋繊維が、トレーニングによって広く感じられるようになったため、力を入れると幅広く筋肉を実感しているためです。

1ミリが命取り。筋力トレーニングには細心の注意を


強くするのか、疲れさせるのか

先に述べたように、筋肉は効率よく刺激を与えてこそ初めていい反応を示し、強くて良質なゴムのように育ってくれます。もし本人にとって間違ったトレーニングが行われた場合、ダンサーのレッスンと同じように運動というより、むしろ労働になりかねません。最初はよくてもそのうち疲労だけを残すものとなってしまい、ダンサーの望みをかなえることなど到底不可能でしょう。大切なのは、どの運動をどのタイミングでプログラムに組み入れるかということです。筋肉の性質、タイプ、癖、骨格など、個人の条件に適した微妙な処方が、ダンサーの命運を分けるからです。そして、決まってクライアントの口から出てくる言葉は、”動きやすい、疲れない、飛ぶのが楽しい、踊るのが楽しい、もっと上手くなれるかも”です。

日本人と西洋舞踊

日本人と西洋人それぞれの持つ肉体的条件は強さ、タフさという点ではかなりの差があります。つまり日本人が西洋で生まれ育ったバレエやジャズを踊り続けていくためには、よほど恵まれたダンサーでない限り、それに見合った肉体条件の穴埋めをしなければ、間違いなく体に負担をかけ、怪我をして後悔するか、形だけをコピーした日本人お得意の猿真似芸だなどと皮肉られる結果になりかねません。
外見のラインやテクニック、意識の仕方など、すべて海の向こうから輸入したままを、どんなに口酸っぱく唱えても、それを理解して消化できるだけの十分な骨格筋を持ち合わせていなければ、不必要に落ち込むことになるだけです。あんなふうに踊れたら、と思ったら、その動きをコントロールできるだけの肉体的機能や条件にまず着目すべきです。ここではっきり申し上げておきます。小手先だけではなく、”本物の技術は力の中にあり”です。




バレエと怪我TOPへ